相続放棄と限定承認の違い
1 相続放棄と限定承認の概要
相続放棄は、はじめから相続人ではなかったことになるという法的効果を有する手続きですので、相続財産を一切取得することができなくなりますが、相続債務も一切負担せずに済むようになります。
限定承認は、相続放棄とは異なり、相続で得られる財産を限度として、相続債務を引き継ぐという法的効果がある手続きです。
相続債務の方が相続財産よりも多い場合には、相続財産を得られない代わりに、相続債務も負担せずに済みます。
もし相続財産よりも相続債務の方が少なければ、相続財産を一部残すことができます。
また、手続きの仕方や費用の面においても、相続放棄と限定承認とでは大きく異なり、限定承認の方が手続きは複雑であり、かつ費用も大きくなります。
以下、詳しく説明します。
2 手続きの違いについて
⑴ 手続きをする相続人の範囲
まず相続放棄は、各相続人が、それぞれ個別に行うことができます。
相続人が複数人いる場合、相続放棄をする相続人と、相続放棄をしない相続人を混在させることもできます。
これに対し、限定承認は相続人全員が共同で申述する必要があります。
そのため、事前に相続人間で話し合いや調整を必要する必要があります。
【参考条文】(民法)
(共同相続人の限定承認)
第九百二十三条 相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。
参考リンク:e-Gov法令検索(民法)
⑵ 手続きの流れと所要期間
① 相続放棄
相続放棄は、基本的には相続放棄申述書と戸籍謄本類を管轄の家庭裁判所に提出したのち、必要に応じて家庭裁判所からの質問状への回答をし、相続放棄申述受理通知書の交付を受けることで終了します。
相続放棄は比較的単純な手続きであり、終了までの期間は、通常1~3か月程度となります。
② 限定承認
限定承認の手続きは、相続放棄と比べかなり複雑であり、所要期間も長くなります。
まず、申述の準備段階において、相続財産と相続債務の正確な調査を行う必要があります(相続放棄の場合、「不明」でも問題ありません)。
相続財産と相続債務の調査後、限定承認申述書と相続財産・相続債務の目録、戸籍謄本類を管轄の家庭裁判所に提出します。
限定承認をしたら、5日以内(相続人が複数人いて、相続財産清算人が選任される場合には10日以内)に、すべての相続債権者および受遺者に対し、2か月以上の期間を定めて、その期間内に請求の申出をすべき旨を官報で公告します。
請求の申出期間が完了したら、もともと判明している相続債権者、受遺者、および官報公告等に基づいて被相続人に対する債権を有する旨の申し出をした相続債権者、受遺者に弁済を行います。
相続財産の中に自宅不動産など、相続人が取得する必要がある財産が存在する場合、買受に必要な資金を用意できるのであれば、競売によって換価される前に相続人が優先して買い受けることができます。
被相続人の財産の清算のため、売却をした場合には準確定申告を行う必要がありますので注意が必要です。
残余財産がある場合には、受取るための手続きをします。
これらの手続きがすべて終了するまでに要する期間は、一般的には1年~1年半程度とされています。
3 費用面での違い
相続放棄に必要な費用は、一般的には戸籍謄本類の収集や家庭裁判所へ納める手数料のみであるため、数千円程度となります。
相続放棄の手続きを弁護士に依頼した場合でも、通常数万円程度の手数料で行うことができます。
相続放棄の手続きにかかる費用について詳しくは、こちらをご覧ください。
限定承認は、戸籍謄本類の収集や家庭裁判所へ納める手数料に加え、官報への掲載費用4~5万円が必要となります。
また、限定承認を弁護士に依頼した場合には、一般的には30~50万円程度の費用が必要となります。
限定承認は相続放棄と比べ、手続きが大幅に複雑になるためです。
残余財産の受け取りができた場合には、その財産のうちの数%を報酬金とすることもあります。
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